大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)820号 判決 1949年2月08日

主文

原判決を破毀する。

本件を仙臺高等裁判所に差戻す。

理由

辯護人庄司作五郎及び同中里建夫の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

辯護人庄司作五郎及び同中里建夫の上告趣意について。

論旨は多岐にわたっているが結局原判決が本件控訴申立を不適法として却下したのは違法であるというに歸着する。按ずるに舊刑事訴訟法第四六條同三七九條の趣旨は、主として原審に關與した辯護人はその審理に基く判決に對し上訴を爲すべきか否かを獨立して決定するに適するものと認めたからである。それ故原審の辯護人でない者、若しくは判決宣告後において被告人の選任した辯護人は、たとい被告人の明示した意思に反しなくとも、獨立しては上訴を爲すことを得ないものと解しなければならない。記録に徴するに、被告人は辯護人を選任することなく、昭和二三年二月二七日仙臺地方裁判所石卷支部において有罪の判決を受け、その後同年三月二日辯護士中里建夫を辯護人に選任し同辯護人は其名において同日控訴の申立を爲したものであることが明らかであるから、同辯護人は所謂原審における辯護人には該當しない。從って被告人の爲獨立しては上訴を爲し得ないといわなければならない。しかし被告人は辯護士に對し特に上訴を爲すことを依頼する旨を明示しなくとも自ら上訴をしないで、上訴審における辯護を辯護士たる辯護人に依頼したときは、上訴をすることをも依頼したものと見るを相當とするから、かかる場合はその辯護人は被告人を代理して被告人の爲上訴をすることができるものと言はなければならない。そして上訴をなすに當っては、被告人の代理たる旨を明示することは必ずしも必要とするものではなく、辯護届、上訴状等により、其趣旨を看取し得るを以て足るものと言わなければならない。前に述べたとおり本件においては、被告人は自ら上訴を爲すことなく辯護士中里建夫に控訴審における辯護届を依頼する旨の辯護届を同辯護士と連署して第一審裁判所に提出し同時に同辯護士において第一審判決に對し控訴を爲す旨の控訴状を同裁判所に提出したのであるから、同辯護士の控訴状は被告人を代理して被告人の爲に控訴の申立をしたことを窺い知ることができる。それ故本件控訴は適法に申立てられたものと言わなければならない。然るに原判決は右辯護士中里建夫は舊刑事訴訟法第三七九條に所謂原審の辯護人でない點にのみ着眼し同辯護士は被告人を代理して上訴の申立を爲したることを看過し、適法になされたる控訴申立を不敵法として却下したるものであるから本件上告は理由がある。

よって刑事訴訟法施行法第二條舊刑事訴訟法第四四七條同第四四八條ノ二により主文の通り判決する。(昭和二三年(れ)第三七四號事件同二四年一月一二日大法廷判決參照)

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 河村又介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例